原哲夫がそんなこと
気にしてたわけないじゃん

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黒王号の品種と性質

 拳王軍第二位の戦力であろう黒王号を実在しうる馬とし、その馬種を推測しています。


黒王号の品種と性質

メモ*1 メモ*2

伝説の巨馬

 黒王号が読者に与えた衝撃は尋常ではなかった。何しろ蹄の跡が「象の足ほども/ある」馬である。象の足がどれくらいあるか実物を触ったことはないが、写真から判断すると、体高3.5mとして直径65cm、もし黒王号の蹄が本当に65cmもあったなら、推定される黒王号の肩高は470cmにもなる。流石にこれほど大きくなれば身長210cmの拳王様でさえ騎乗出来ないから、「象の足ほども/ある」は誇張が過ぎるだろうが、まるで柿の如く敵を踏みつぶす描写を見れば、強ち誇張が過ぎるとも思えない。その戦力たるや拳王軍中拳王様に次ごう。あれほどの馬、尋常な草食獣とは云えまい。もしかするとブケファロスBucephalusのような食人馬だったかも知れない*3。黒王号は滅茶苦茶である。

続き

実在する馬種として黒王号を見る

 だが、儂は敢えて黒王号を実在する馬としてその可能性を考えてみた。
 馬と云っても、馬には様々な種類がある。『北斗の拳2000』*4の見立てではアラブ種としているが、あの記述は恐らくアラブ種とアングロアラブ種を混同していて正確ではない。「乗用に適している」のはアングロアラブ種のことであって、アラブ種はサラブレッド種に比して小柄な品種である。耐久力があって丈夫だが、他の品種と比べて決して乗用に適しているとは云えない。アングロアラブ種はサラブレッド種とアラブ種の混血で、一般にアラブ種と云えばこのアングロアラブ種のことを指すので混同してしまったのだろう。アングロアラブ種は大人しい性格で確かに乗用に適している。それはサラブレッド種の特徴を継いでいるからである。
 黒王号の大きさを考えるととてもアラブ種やアングロアラブ種とは思えない。またアラブ種には青毛(黒い毛の事)が少く、漆黒の黒王号の特徴とは合致しない。大きさから判断するならば、流石に上に書いたような470cmの馬なんて考えられないので、2.1mの拳王様が騎乗なされたお姿から判断して、黒王号の肩高は2mくらいであろう。このくらいの馬はサラブレッド種にもいるにはいるが、黒王号の四肢の逞しさから考えると先ずサラブレッド種ではない。速く走るが故に脆弱なサラブレッド種の脚ではとても人を柿のようには踏めまい*5
 容姿から黒王号の品種はペルシュロン種Percheronと判断して恐らく間違いなかろう。記録に残っている最大のペルシュロンは肩高210cm、体重1372kgのドクトゥール・ル・ジェアPercheron Dr Le Gearという牡馬である。推定される黒王号より少し大きい。ペルシュロン種は所謂輓馬であるが、輓馬は何もペルシュロン種だけではない。他にもあるかも知れないが、儂が知る限りはクライスデール種Clydesdale、シャイアー種Shire、ブルトン種Breton、ベルジアン種Belgianがある。これらの中から儂が何故黒王号をペルシュロン種と断定するのかというと、他の品種の特徴が黒王号の姿に合致しないからだ。
 先づクライスデール種とシャイアー種は距毛が長い。またクライスデール種とベルジアン種は距毛が白く、ベルジアン種には栗毛や粕毛が多い。ブルトン種は他の輓馬種に比べやや小さく、粗雑な姿をしている。黒王号の距毛は長くはないし、白くもなく、漆黒で、気品ある姿をしている。ペルシュロン種には青毛が多く、容姿には気品がある。これらの特徴を考えると、黒王号は矢張りペルシュロン種であろうと考えられる。

黒王号の実在可能性

 では、黒王号はペルシュロン種として実在し得る馬なのであろうか。
 一般に黒王号は獰猛な性格である、と考えられているが、儂は黒王号のことをどうも獰猛だとは思えない。寧ろ温和しいとすら思う。というのも、作中黒王号はバットやリンと幾度も相対しているが、不必要にバットらを威嚇した様子はないし、相手が雑魚でも無意味に噛んだり蹴ったりしたことはない。獰猛に見えるのは飽くまでも戦場でのことで、ラオウ様やアインの墓前でしんみり項垂れる黒王号は獰猛などと云う野卑な言葉とは無縁である。黒王号は強いと云うだけであって、獰猛ではない。強さが獰猛と同義なら、ケンシロウもラオウ様も獰猛であると云えよう。
 抑も馬に限らず動物は体格が小さくなる程獰猛である。狗でもセントバーナード種よりスピッツ種の方が獰猛である。馬でもペルシュロン種より木曽馬の方が遙かに獰猛だ。日本原産馬は西洋人が驢馬と見間違える程小柄であったが、戦場では勇猛で、敵を噛んだり蹴ったり、暴れ出したら鉄棒で殴っても収らないという生き物だった*6
 動物の世界での獰猛は臆病の裏返しで、猿の世界では先に喧嘩を仕掛ける気性の荒い猿ほど弱いという。狗で例えれば、セントバーナード種がスピッツ種に不意打ちを食らったとして、セントバーナード種が負けるか、ということを考えれば判り易い。先ず負けることがない相手に対して警戒するなど馬鹿馬鹿しい神経の浪費だ。故に強い生き物程性格は穏やかである。ましてや黒王号は虎を瞬時に叩殺す拳王様がお認めになった毛物だ。恐らく虎より強い。虎より強い黒王号が何者を恐れ、獰猛になる必要があるのか。黒王号が人を食っている描写もないので、普通に草を食っていたのであろう。ならば捕食する必要もないので、不必要に獰猛になることはない。ラオウ様やアインの墓前で項垂れる黒王号こそ黒王号の真の姿だったに違いない。
 黒王号は己が認めた者にしか背を許さぬというが、これも普通の馬の特徴である。普通の馬も大なり小なり乗り手を選んでいる。馬に限らず集団生活をする動物は相手の能力を測って序列を定める習性がある。そうすることで集団の秩序を安定させ、生活力を保つのである。だから馬は己の下位にあるものには従わない。それは人をも巻き込んだ序列である。大抵の馬が背を許したり許さなかったりするのは単にその馬が普通の能力しか具えていないからで、黒王号程の馬になれば自然優れた資質を持つ者しか背には乗れない。これはごく普通の馬の特徴である。相手が黒王号だ、という程度の問題で特殊に見えているに過ぎない。
 また、黒王号はケンシロウと引分けた拳王様の傷を舐めて労ったり、ジュウザを埋葬しようとしたり、ラオウ様の死を理解してケンシロウに従ったりしているが、これもごく普通の馬にも具わった能力だ。一見黒王号が異常に賢いように見えるが、馬という生き物は元々察しが良いもので、例えば計算をする馬がいるが*7、あれは計算をしているのではなく、出題する人の顔を見て蹄を打つ回数を調節しているに過ぎない。正解の数に至った時、出題者は「正解だよ」という顔をするらしいのだ。その人には判らぬ程度の僅かな表情の変化を察する眼力が馬にはあるらしい。馬が人を踏まぬ理由ではないが、繊細であることは間違いではない。

黒王号は案外普通?

 こうして考えてみると、黒王号はごく普通の馬だった、という結論に至る。勿論幾らペルシュロン種でも普通の馬が戦場であそこまで強いとは思えないが、決して異常という程異常ではない。飽くまでも想像出来る範囲の異常である。幾ら黒王号でも闘気で人を攻撃したりしないのだから。
 ただ、どうしても判らないことが一つある。それはシュレンの捨て身の攻撃に身じろぎもせず立っていたことだ。如何に黒王号と雖も動物である。人以外の動物は火を恐れる。それが、拳王様を信頼しきってのことだったのだろうが、それにしても体毛一本すら燃えた様子がないというのはどう云うことか。例えば犀なら火を見て突っ込んで来るということはあるが、それは怖いが故に火が小さい内に消しておきたいからである。黒王号のそれは明らかに違う。火なんて全く意に介していなかった。
 火を怖れず燃えもしない毛物………。これのみといえばこれのみだが、これのみでも可成り異常ではある。矢張り黒王号は異常なのだろうか。

aside

*1
2003/02/26.加筆修正
*2
2005/11/13.加筆修正
*3
 アレクサンドロス三世の愛馬で、人を食っていたという伝説がある黒い巨馬。馬なのに「雄牛の頭」という意味の名で、額に星の模様があったらしい。元々アレクサンドロスの父フィリッポスに贈られた貢物で、誰も乗りこなせぬ暴れ馬だったが、馬が自分の影に怯えていることに気付いたアレクサンドロス三世は鼻面を太陽の方向に向けることで落着かせた、という話がある。
 十七年間アレクサンドロス三世と共に戦場を往来し、紀元前326年ヒュダスペス川の戦いで戦死すると、アレクサンドロス三世は丁寧に埋葬し、同地にブケファロスという街を作った。
 こう書いてみると、何だか黒王号と云うより松風に近いような。黒王号は埋葬される方じゃなくて埋葬した方だし。ジュウザのことね。
*4
*5
 『2000』では馬を「『落馬しても騎手を踏まない』とまでいわれるほど繊細で心優しい動物」と説明しているが、これは事実ではない。元々馬は平地で肉食獣から逃げる為にあのように進化した動物で、一応山岳地帯にも住みはするが、元々は凹凸のある道を歩くようには出来ていない。だから馬は選んでなだらかな道を歩こうとする。
 つまり馬は己の脚を痛めることを恐れて人を踏まぬのであって、繊細とか心優しいとかいう訳で人を踏まぬわけではない。だから馬が恐れる程の凹凸でなければ人も踏む。だいたい古より馬に踏まれて死んだ者は数多い。馬が一般的な移動手段だった時代、馬に踏まれるというのはごく一般的な死因だった。『2000』の著者は馬が人を踏まないことを前提にして如何に黒王号が異常であるかを強調しようとしたのであろうが、こういう嘘は吐いちゃいけない。黒王号のことを強調する餘りに馬の特徴について嘘を吐くことになるからだ。
 馬が人を踏まぬのは飽くまで己の脚を庇ってのことだ。だから逆に考えれば馬だって己の脚に自信があれば人を踏む。黒王号程の剛脚であれば人の頭など柿に等しい。己の脚の心配など全くしはしまい。
*6
 ルイス・フロイスLuis Froisの書簡などの記述によった筈だが、後でこの註釈を記す為に調べて見ると、どうも該当する記述が見付からない。うちの書棚に並んでない文献の記述かも知れず、また勘違いかも知れない。ただ、大型の馬種程温和しいことは確かだ。
*7
 「クレバー・ハンス(賢いハンス)」という話がある。二十世紀の初め頃、ドイツのフォン・オステンという人が飼っていた馬のハンスは計算が出来るとたいそう評判になった。「5+3」を問うと蹄で地面を八度打つという工合である。掛算割算も出来たという話だ。
 だが心理学者オスカー・プフングストが調査してみると、ハンスに計算など出来ていないことが解った。周りに正解を知る人がいないと計算出来なかったのだ。つまり周囲の人の反応を見て蹄を打つ回数を調節していたわけだ。
 例えば答えが八なら、ハンスが蹄を打ちはじめると、周囲の人は緊張してその回数を数える。そして蹄を八つ打った時、「そこ!」と思い、無意識に「打つのを止めろ!」というシグナルを発してしまうというのだ。だからハンスは打つのを止める。そして皆、正解だ、凄いと驚くというわけである。馬は周囲の反応に敏な生物故、このようなことが出来る。所謂コールド・リーディングというやつで、正解を知らずとも正解を導き出してしまえることを「クレバー・ハンス錯誤」という。
 因みに計算する金魚というのもあるが、あれは人にとっての不可視光線を使ったトリックで、クレバー・ハンスとは違う。金魚にも人に馴れるくらいの知性はあるようだが、当然計算なんて出来るわけがない。

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