私とこの娘がお笑いコンビだったら
この娘が「じゃない方」って
呼ばれてる筈よね

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アイリ伝

レイの妹アイリの伝記


アイリ伝

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名称・呼称アイリ
渾名・異名なし
初登場『北斗の拳』第031話「血ぬられた罠!!の巻」
所属レイ→婚約者→ジャギ→?→デスバトル無敗のチャンプ→牙一族→マミヤ
拳法・闘法ボウガン
身分・階級レイの妹→奴隷→レイの妹→マミヤの村の住人→レイの墓守
属性・分類美女/縁者
人形な言葉どんなことにも/従います どうか/かわいがって/ください……(JC:04:111)

続き

メモ*1

アイリについて

 レイの実妹。結婚式の直前に「七つの傷の男」を装うジャギに婚約者と両親と村人全員を殺された挙句に攫われた。その後のことは判然とせぬが、奴隷として売られ、或いは奪われ、何度も主を変えていたらしく、デスバトルのチャンプは「食料一か月分という/大枚をはたいて/買った」という。レイと再会した時、世を儚んで自ら薬で目を潰していた為、アイリはレイをレイとは判らず「また新しい/ご主壬様/ですね…」「今度は/わたしは どこへ/つれていかれるの/ですか?」「わたしは決して/逃げたり/いたしません」「どんなことにも/従います どうか/かわいがって/ください……」と挨拶してレイを悲しませている。ケンシロウがいう通り「どれほどの/むごい目に/あったのか…」、想像に難くない。
 アイリがレイと再会出来たのは、マミヤの村を狙う牙大王が用心棒の力を削ぐ為に情報を集め、レイの妹であるアイリを発見したからだ。牙大王はすぐさまデスバトル不敗のチャンプからアイリを強奪、ケンシロウマミヤとともにアジトに攻入らんとするレイの前に曝されレイを動揺させた。
 それでもケンシロウは襲いかかるマダラを斬殺した挙句に「その女を/殺すなら/殺せばいい」「おれは/おまえを/抹殺するために/やとわれた/だけだ!」と宣いアイリを気にする様子は全くなく、マミヤは慌てて策を講じ、自らケンシロウのフィアンセと偽って自ら牙大王の人質なり、牙大王の命を狙う。
 だが牙大王の華山角抵戯にマミヤの攻撃はまるで通じず、結局マミヤも人質となり、アイリともども牙一族の遊び道具にされてしまう。それでも「や…やめろぉ/やめてくれ!!」「た…たのむ/やめてくれ/アイリだけは!!」と焦るレイに対しケンシロウは「いったはずだ/おれはきさまらを/殺すために/やとわれた/男だと!」と気にしない。「ハッタリだ!」と高を括るゴジバを叩き殺し、牙大王を怒らせる。竟に「ブッ殺して/やるわ〜!!」とアイリの首筋に朴刀をあてがうレイは「アイリだけは/殺さないで/くれ!たのむ!!」「そのためなら/おれは/なんでも/やる!!」と云ってしまい、牙大王に「きさま/その北斗の男を/殺せぇ!!」と命じられる。
 ケンシロウは冷静にレイを諭すが「だが その男が/自分の妹を/見殺しに/できるかな〜」と牙大王は見透かしている。レイは本意ならざるもケンシロウに襲いかかった。

アイリの正確な状況理解力

 ケンシロウを殺さんと南斗水鳥拳で攻めるレイに対し、ケンシロウは「おれは…」「おまえとは/闘いたくない」と反撃しない。そんなケンシロウにレイの拳も鈍る。煮え切らない二人に牙大王は業を煮やし「なにを/もたもた/しておる!!」「南斗の男きさま/妹の命おしく/ないのか」とアイリの首筋に刀の切っ先を食込ませレイを嗾ける。
 マミヤは慌てて二人を制し、「このふたりを/闘わせる/わけにはいかない!!」「かれらには/牙一族を/倒し 村を/救ってもらわねば…」と思案、「そのためには/わ…わたしが/死………」と考えるに至ったその時、アイリも「同じことを/考えて」舌を噛んだ!
 マミヤは「こ…この娘も/同じことを/考えて……」と心を同じうし、牙一族が持っていた槍の穂先に飛込んで自殺しようとしている。だが残念ながらマミヤは間違っている。アイリはマミヤと同じことを考えたのではない。アイリが正しく状況を理解し死を選んだのに対して、マミヤは混乱して無駄死にしようとしていた。
 というのも、この場で問題になっているのはアイリただひとりだ。レイが助けたいのは「アイリだけ」である。ケンシロウはアイリとマミヤが殺されても問題ない。マミヤとの契約にマミヤの命もアイリの命も含まれていない。牙一族の抹殺以外はケンシロウの関心外だ。故にマミヤが死んでも生きても同じである。マミヤは関係ない。
 処がレイはアイリが人質になっているからケンシロウを殺さねばならない。アイリが居なければマミヤが死んでも問題ない。アイリただひとりの問題である。「わたしが…/わたしが死ねば/兄さんは闘う/必要はない!」「こ…こんな/汚れた/わたしのために/これ以上兄さんを/苦しめたくない!!」というアイリの状況理解は正確である。

 とはいえマミヤの「ケン!レイ!/村を 村を/救って!!」という涙ながらの訴えでケンシロウの心に火が点くのだから、結果としては良かったのだろう。ケンシロウは聖極輪でレイに合図し、相討ちを装って牙一族を油断させ、無事マミヤとアイリを解放させることに成功、牙一族を討ち滅ぼした。

ケンシロウに忘れられがちなアイリ

 帰村後、アイリの目はケンシロウの秘孔術によって回復する。ケンシロウはアイリを攫った「七つの傷の男」をレイに自らの「七つの傷」を見せるが、レイは視力を取戻したアイリを抱き「ケン! たとえ/おまえがアイリを/連れ去った本人/だといっても」「おれは/信じはしない/それぐらい/おれにはわかる!」と云ってバットを安心させた。
 レイはアイリに訊ねる。「アイリ/おまえを/連れ去った/胸に七つの傷の/男の顔は/おぼえているか?」。アイリは「あ…あの男の/顔はしらない」「あの男はいつも/黒いヘルメットを/かぶって顔を/かくしていたわ」と答えた。ケンシロウには心当たりがあった。ジャギだ。

 処がケンシロウはジャギと対決し、ジャギに復讐する時、うっかりアイリの分を忘れてしまっている。「きさまの謀略の/ために果てた/4人の怒り…/悲しみをじっくり/味わうがいい!!」と御丁寧に「これは/シンの分!!」「ユリアの分だ/!!」「三人目は/あの幼い/兄弟の分!!」「このおれの/怒りだあ!!」と数えていながら、アイリが入っていない。
 勿論アイリは「果てた」わけではない。生きている。然しそれをいうならケンシロウだって果ててはいない。また人数も間違えている。「三人目は/あの幼い/兄弟の分!!」、兄弟は「三人目」ではない。「三人目と四人目」である。アキの顔が描かれているので、マコ兄ちゃんを忘れている。序でにアイリのことも忘れている。どうもケンシロウはアイリにちっとも興味がなかったらしい。マミヤにさえ興味がないのだから仕方がないのか。

 その後も何度か登場するが、ケンシロウとの掛合いは全くない。抑もケンシロウが「アイリ」の名を呼んだことすらないのだから酷いものだ。もしかするとアイリを攫った「胸に七つの傷の男」が義兄ジャギであったことから気を使っていたのかも知れないが、それでもジャギに「アイリの分!」を返さなかったことは反省せねばなるまい。

アイリの自立

 マミヤの村で静かな暮しを手に入れたアイリであったが、村が拳王侵攻隊に攻め落とされると、リンとともにとある建物の一室で捜索の手を逃れ、ただ震え「だ…だめ/もう……/だめ……」「すぐに/みつかるわ/!!」「また あの/とらわれの/生活へ/戻るしか…」「わたしたちは/心を失くして/人形となって/いきるしか/ない」「今の世界に/翻弄されて/流されて生きる/しかないのね…」と悲観するばかりである。どれだけ惨い目にあったか想像に餘りある。アイリは弱いのではない。それだけ傷つけられているのである。
 そんなアイリをリンが励ます。リンの言葉は決して重いものではない。寧ろ安い励ましである。孤児といってもアイリが見た地獄に比べれば比較にならぬ。然しリンは少女だ。幼女といってもいい。アイリの心に響くものであった。
 拳王軍兵士の気配を察知してリンはアイリをシートで隠し、鉄棒を振って兵士に襲いかかる。案の定リンは容易くはり倒され表に連れ出された。泣きながら見送るアイリ、これから数分、どれだけの葛藤があっただろうか。
 ややあってレイが村に戻ってリンの危機を救うも、拳王侵攻隊長ガロンはアイリを人質にとってレイの戦意を削ぐべく部下に捜索を命じる。然しアイリは自らボウガンをとって拳王軍兵士を打殺し、高らかに宣言する。

わたしなら
ここにいるわ!!

わたしは
戦う!!

もう
にげたりしない

わたしは
きのうまでの
アイリじゃ
ない!!

兄さん
思う存分
戦って!!

わたしは
リンちゃんに

戦うことを
教えてもらったの

JC:08:039-40

 レイ曰く「あ…あの抗う/術を知らず/周囲の風に/流され」「人形のように/生きることしか/できなかった/アイリが!!」である。ほんの少し前に牙一族から取戻され、ほんの少ししか過していないレイが、このように評するのだから、それまでのアイリがどれだけ弱っていたか、病んでいたかが判る。マミヤの村でもアイリはただ風に流され人形のように人に従うことしか出来なかったのだろう。こうなると最早われらには何も想像出来ない。アイリはどれだけ深く傷ついていたのだろうか。

 この後アイリは新血愁を点かれたレイに寄り添い、嘆き悲しみながらも最後の戦いを見届け、以後は墓守として生きたようだ。マミヤととともにファルコに殺された長老の墓に手を合わせる姿が描かれている他、アインの葬送にも姿を見せているが、バットとリンの結婚式に参列していないことが少し気になる。裏方でもしていたのであろうか。

アイリの評価

 残酷なようだが、レイの妹でなければケイやユウの母親と同程度の印象しか残らない影の薄い単なる脇役である。牙大王には「ほう…これは/美しい」と讃えられているが、年頃の女の殆どが美しく描かれている『北斗の拳』に於いて美女であることが殊更特徴になるとは云えない。
 また美しさの表現も幾分他の美女に見劣りしているように思われる。仮令ばデスバトル不敗のチャンプが「食料一か月分という/大枚をはたいて/買った」というが、確かに大枚には違いないものの、ジョニーがただ飯食いの男を追払う為にバットとケンシロウに支払った代価の高々二十倍程度である。其処まで法外な値段とは思えない。この「食料一か月分」がチャンプの組織全体の「食料一か月分」とすると幾分話は違うが、それでもサザンクロスを捧げられたユリアや国ごと欲せられたルセリに比べれば誤差の範囲に過ぎない。アイリは国を傾けるような美女ではなかったと云える。

 とはいえ『北斗の拳』作中に直接的な描写はないが、アイリは世紀末に於いて擢んでて不幸な境遇にあったことが特徴と云えるかも知れない。何しろ結婚式の直前に婚約者と両親を殺されて攫われ、運命に翻弄されるまま流れ流れてやがて絶望し自ら薬で眼を潰している。
 『北斗の拳』は少年漫画である。だから直接の描写はないが、アイリは明らかに強姦され、娼婦として蹂躙され、売られ、奪われ、幾人もの男の間を渡り歩いている。そうでなくば誰も労働力として使えない盲女を買うことはあるまい。然も最初にアイリを攫って女を奪ったのはジャギだ。ジャギは別にアイリに興味があったわけでもなく、ただケンシロウに復讐せんが為にケンシロウの悪名を流布する目的でアイリは全てを奪われた。これ以上の不幸があろうか。アイリの「女」は軽んじられ、無視されている。アイリの価値は完全に否定されている。

 それでも、アイリが不幸なのは、そのような過去があるからではない。その過去を汲取って魂を救済する新たな幸福に恵まれなかったことだ。確かにアイリはリンの献身によって勇気を奮い立たせ自立することは出来た。然しその四日後に最愛の兄を失い、以後これといって何もない。ただレイの菩提を弔うばかりである。最悪の過去から脱しはしたものの、アイリはまだ救われていない。作者がその救済を描いていない。
 マミヤも似たような境遇にある女である。両親をユダに殺され攫われたマミヤは「女」を否定された。ユダ自身はマミヤに手を出せなかったというが、逃げ帰ったマミヤの怪我や着衣の乱れ具合から追手か野盗に強姦されたことは想像に難くない。マミヤもアイリと同じ傷を持つ女である。だからマミヤはアイリのよき理解者になったであろうし、アイリもマミヤに幾分かは救われただろう。
 それでもアイリはマミヤと同じではない。何故ならマミヤはレイがいる。レイが命を賭してマミヤの「女」を取戻した。マミヤの否定された「女」がレイに肯定された。マミヤの「女」は救済されている。
 然しアイリにはそれがない。ファン心理から、作中に描写がないだけで…と想像することは簡単だ。然し事実としてその描写がない。作者に描いて貰っていない。アイリは依然不幸のままだ。アイリの傷を癒す新たな幸福は『北斗の拳』作中には用意されていないのである。

 残念ながらアイリは『北斗の拳』全篇を通して餘り意味あるキャラクタとは云えなかった。最初はレイの行動動機として機能したが、その機能はすぐにマミヤのものとなり、レイの死後はマミヤの傍らに居る以外に何も役割がなかった。精々マミヤのウェーブがかった黒髪に白抜きのストレートの髪が"絵になる"程度のことで、ただの飾りにしかならなかった。最終章ではバットがレイに言及しながらも、アイリが描かれることはなかった。本当に影が薄い。

aside

*1
 本記事は1998年から2004年まで執筆掲載していた『北斗人物列伝』の再編集掲載記事です。2004年にサイトを改装している最中にHDDがクラッシュし、全てロストしたと思っていましたが、別のHDDに取っていたバックアップを2011年三月に発見したので、少し手を加えて再掲することにしました。

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