ジャギを駄目だと誰が云いきれる!

メモ*1

ジャギの悲哀

「兄弟を競いあわせるには、ジャギのような毒を持った人物も必要だったのです。彼があのような破壊者になったのも、兄弟間の競争に敗れたからで、もともとは、拳法の才能豊かな人物だったのです。」──『週刊少年ジャンプ特別編集 北斗の拳SPECIAL』より

 上記引用文を見るに、ジャギは根っからの悪人ではなかったようだ。確かにアキの目がケンシロウに似ていると感じながらも一旦見逃した辺りに幾らか良心を残していた蹟が見える。キムと違い伝承者最終銓衡に残るだけの実力は具えていたのだから、きっと衆に優れた才能を具えていたに違いないのに、他の兄弟たちが更にそれを凌ぐ人外の才能を具えていたが為に敗れ、その心の襞をリュウケンが酌取れなかったことこそ、ジャギの破綻の要因であろう。そこを斟酌すると、ジャギも哀しい男である。何故リュウケンはジャギを導けなんだのか。

続き

ジャギの実力

 そのようなジャギを我々は軽視しがちだ。勿論その一直線に歪んだ人柄の面白さはよく知っている。決して軽く見てはいない。だがサウザーが「北斗三兄弟」と云うてしまうが如くジャギを六十四代北斗神拳伝承者の候補者として軽く見がちだ。軽率な者であれば、何も考えずにジャギが弱いと断定してしまう。
 だが考えてもみよ。この六十四代は「ラオウ トキ/ケンシロウの/3兄弟により/北斗神拳/二千年の歴史は今/北斗最強の時代に!!」なっていた。曾てリュウケンに殺されかけたラオウ様はリュウケンをも凌ぐとされたコウリュウを倒し、その剛拳が時を経てリュウケンを超えたことを証明、トキはそのラオウ様の頭上に死兆星を呼び、ケンシロウはそのラオウ様、トキをも踏越えて北斗神拳創始にまつわる悲劇に終止符を打った。この三人は恐らくどの世代の伝承者と比べても最強を競う三人であろう。
 その中にジャギがいる。確かに見劣りするかも知れぬが、然し、最強の三人に囲まれて見劣りしたからとて、それでジャギが弱いことになろうか。誰がなんと云おうとジャギは北斗神拳伝承者最終銓衡に残ったのだ。ということは、不作の世代…或いは普通の世代であれば、もしかするとジャギが伝承者になっていたかも知れない。ジャギくらいの技量の伝承者が過去にいたかも知れない。ならばジャギが弱いわけがない。営々と六十四代最強の名を護ってきた中にジャギくらいの伝承者がいたのなら、ジャギくらいの伝承者もまた最強と云える。ならばジャギにも最強の可能性はあった。

 北斗神拳の伝統武術として考証は別に章を立てて詳しく述べるが、その奥義は「七星点心」にある。多くの者は「七星点心」を攻撃法と考えているようだが、リュウケンによる説明を読むとそれが歩法であることが解る。北斗七星の形を踏む歩法は一般に"禹歩"と謂い、古来より支那では辟邪の法として霊山を登る際に用いられた。實は日本にも仏教とともに伝来しており、仏僧が日常当り前に清めの法として用いる他、武芸や能狂言にも取り入れられ、奥義としている。「七星点心」は先づ間違いなく"禹歩"のことで、多分八卦掌の"擺歩""扣歩"に近い奥義である。
 北斗神拳は大きく剛拳と柔拳に分けられるらしいが、剛拳を南拳、柔拳を太極拳のようなものとして考えれば、別段泰山や華山の拳法と違いはない。金剛石をも切断する南斗聖拳に勝つのは難しかろう。だが北斗神拳には岩山両斬波くらいしか打法がなく、どうも殴り方蹴り方を云々する拳法ではないらしい。というのも、霞拳志郎は1930年頃の上海で北斗神拳を奮わずに江湖を渡り歩き武者修行に勤しみ、ラオウ様はカサンドラに拳法家を収監して奥義を奪うて、ケンシロウはリュウに北斗神拳を仕込むことなくバルガに預けて去った。リュウの件はケンシロウの育児放棄として批難が集まる処だが、どうもケンシロウ自らリュウに教える必要などなかったのではないか、と考えてみると、北斗神拳の基礎は別に形意拳でも太極拳でも載拳道でも、バルガが授けられる拳法なら何でも良かったのではなかろうか。つまり北斗神拳に基礎の捶法、基礎の蹴法などないのではないか。そう考えると、此処に北斗神拳最強の秘訣はない。だからジャギの含み針や銃を用いた戦法も、ケンシロウは馬鹿にしていたようだが、有効なら取り入れても構うまい。
 北斗神拳を北斗神拳たらしめる要素は大きく三つ、点穴法と操気術*2、転龍呼吸法や闘勁呼法などの吐納法、そして「七星点心」であろう。然し点穴法と操気術はジャギが使えアミバやバットでさえ見よう見まねで使えるのだから奥義とは呼べまい。吐納法は該する奥義が元斗や泰山華山大乗南拳などにありそうなので、これも秘中の奥義とは呼べない。とすると伝承者最終銓衡の後でもラオウ様が御存知でなく、ケンシロウが北斗逆死葬で封じられて途端に危機に陥った「七星点心」こそ奥義中の奥義と云える。点穴法の知識とそれを実行出来る程度の操気術、転龍呼吸法や闘勁呼法に該当する吐納法を基礎とし、奥義「七星点心」を使えれば、どのような捶法、蹴法であっても北斗神拳であるという融通性こそ、北斗神拳を日々成長する「戦場の拳」「地上最強の拳」たらしめる由縁であろう。
 ラオウ様とジャギ、トキとジャギ、ケンシロウとジャギの差はこの「七星点心」の有無にあると考えられる。ラオウ様は「七星点心」を御存知ないが故に半殺しの目に遭われた。ケンシロウは北斗逆死葬で「七星点心」を封じられた途端危機に陥った。「七星点心」を御存知なかったラオウ様の武力は恐らくウイグル獄長程度である。「七星点心」を封じられたケンシロウの北斗神拳などただの載拳道だ。だからジャギはラオウ様の部下に過ぎぬウイグル獄長の下位に甘んじ、ケンシロウに敵わなんだ。
 もしジャギが「七星点心」を授けられていたら…? なくてもきっとシャチ程度の力はあっただろうが、あればハン、ヒョウさえ凌ぎかねなかったと思う。何せジャギは最終銓衡にまで残ったのだ。

ジャギの知性

 ジャギは意外に賢明な男だ。「兄より優れた弟など存在しねぇ」という言葉を信じるなら、ジャギは別にラオウ様、トキに敗れても歪まなかった筈で、ケンシロウだけが問題だった。
 強情で他者を認めなそうなジャギだが、意外や、認めなんだのはケンシロウだけだ。核戦争後はラオウ様に従い、トキの天賦の才も認め、ケンシロウに敵わぬと見てはシンを唆して討たせた。ラオウ様の器量を認め、トキの才を認め、シンの実力を認めていたのだから、随分ジャギは譲っている。そう考えると、どうもジャギよりケンシロウに問題がありそうに思う。可愛げのない、才能と家柄を鼻に掛けた厭な弟だったのではないか。
 ジャギの読みも良い。アニメではマコがケンシロウを撃ったのはジャギの秘孔で操られていたからだ。ジャギはケンシロウがマコを殺せぬ甘チャンであることを知悉し、そのような罠を仕掛けたわけだ。原作でも、マコには手を出さず、敢てケンシロウが見付けそうな辺りにアキを放置して殺し、マコが復讐するよう仕向けたように考えられぬでもない。これは成功せずともケンシロウへの厭がらせにはなるのでやって損はなかっただろう。ヘリポートのガソリンにしても、あの御時世、よく使わずにとっておいた。遠足のおやつを前の晩に食わない子だったのだろう。ジャギは偉い。ケンシロウが伝承者になった時、ジャギは北斗神拳の危機をも説いているが、思えば第一話、ケンシロウは既に行倒れ、枯死しかけている。つまりあの時点で北斗神拳が断絶する懼れがあったわけだ。ジャギの云う通りケンシロウは戦いには勝つかも知れないが、その甘い性格故に北斗神拳を失伝させてしまいかねない危険な伝承者であった。
 その賢明、読みの良さからすると、あの含み針と銃を使う戦法も、ケンシロウが馬鹿にする程悪かったとは思えない。要は勝てるように戦えばよいのだから、含み針でも銃でも使えばよかろう。霊王でさえ銃弾に倒れたのだ。拳法と銃という問題は重要である。リハクの罠を噛み破ったラオウ様なら既に対策済みだろうが、みすみす眼前でシュウを死なせ、ジャコウの鉄矢を脇で受けるしかなかったケンシロウは、ちゃんとジャギに学ばねばならない。

aside

*1
2007/02/01.再編公開
*2
 秘孔に気を送るだけで足りるので、北斗神拳の操気術は霞拳志郎対芒狂雲、霞拳志郎対張太炎、ケンシロウ対ヒョウ、ケンシロウ対カイオウを見るに三家拳に劣るようだ。

Comment List

Contribute

  • コメントを入力して[Resist]を押してください。
Name
Mail
URL
Comment
Delete Key
Public
Resist Key
「numeri」と入力してください。

CopyRight(C) 1998-2011 「北斗の拳 蒼天の拳 DFS 北斗の庭園」 All right reserved.