三十一篇全比較 04.GOLAN篇 011-016話(全06話)

 リンが再登場しケンシロウの旅に従うようになるエピソードを描いた全六話を「GOLAN篇」とした。
 ケンシロウの旅の拠点といえばマミヤの村の印象が強いが、ケンシロウ最初の拠点は本篇で登場する「Jony BAR 109」であった。原作中で呼ばれたことがなかったこの店の主の名はテレビアニメ版で「ジョニー」と設定されている。勿論屋号に因むのだろう。「109」がもし所謂"マルキュー"であるとすると、このオアシスは渋谷かも知れない。
 ジョニーはなかなか味のある好人物で、このジョニーとの掛合いの中でこれまで張り詰め過ぎていたケンシロウに少し茶目っ気が生じたように見える。これは意外と重要なことかも知れない。

続き

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  • 序:GOLANの非道
  • 破:一筋縄では行かぬGOLAN
  • 急:GOLANの縁起
  • 起:オアシスの生活→組織"GOLAN"
  • 承:孤児の境遇→ケンシロウの怒り
  • 転:軍曹の猛攻→大佐との対立
  • 結:大佐の実力→北斗神拳の威力

 このエピソードのケンシロウは影が薄い。寧ろ決して賛成出来ない理想を謳う大佐に魅力がある。大佐の言分も判るような気がしてしまう。
 それも当り前だろう、こうしてこの六話の序破急を見ると、三枚ともGOLANのことを描いている。その分だけケンシロウの描写が弱くなるのは道理だ。

 起承転結を検めてもケンシロウの描写が弱い。いつもならピシッとキマる「子供たちの涙が/……」の啖呵もいまいちキマらぬ。えてして名台詞、キメ台詞というものは凡庸な言葉であるもので、要は台詞の出来より云うに至る経緯、段取りが大事なのだが、今回のケンシロウはキメ台詞までの蓄積が充分ではなく、故に中途半端だ。「おれは/生れた時/すでに暗殺者/だった」でやっとキマるが、それまでが弱かったものだから、尚もリンがもたらす危機で補強せねばならなんだ。最後の「後悔する/はずはない……」も、「はず」がやや冗長でキマりきらぬ。然しケンシロウでは「後悔する/わけがない……」とも「後悔なんて/しないさ……」とも云えぬ。これしかなかったか。
 然りとて、この篇は駄作である、とは云えぬ。何故なら「KING篇」で既に『北斗の拳』はケンシロウの性格、来歴、行動原理、北斗神拳…などを描写し終えていたから、これ以上ケンシロウについて描く術がなく、故に描写の対象はケンシロウ以外となり、その為に武論尊と堀江信彦は描写の対象をケンシロウ以外にしていた。その智計や見事である。

全ての孤児の代表者

 第一の対象はリンである。
 一見この篇の対象がリンであるとは解り憎い。再登場したリンだが、この篇で悲劇に見舞われるのはリマだ。リンは単に囚われただけ、ケンシロウに助け出された時点で既に不幸を免れている。
 だがケンシロウは明らかにリンの為にGOLANと対決した。何故か。気絶したリマに水を含ませ、「こ…これで…/この子も/わたしと/同じに…/目が さめても/ひとり/ぼっち…/行く/所もない」と憐れむリンの哀しげな後姿にケンシロウはGOLANを潰さんと決意し、訳を問うバットに「これ以上/リンと同じ/人間を つくり/たくない!」と答えた。これが全てである。この一行で武論尊は二つのことを描いた。
 一つはこうした悲劇がこの世界にありふれているという過酷な現実である。リンとリマ、たった二例に過ぎぬが、とはいえ二例である。リンの場合は過去として語られたが、リマは将に現在であり、この二人の親を殺した人非人は別人である。ならば更に別の人非人によってこの先リンやリマと同じ悲劇に見舞われる子があろうことが容易に想像出来る。故にリンもリマも数多いる不幸な孤児の一例に過ぎず、リンとリマが殊に不幸なわけではないことが判る。またこの二例を以て非力な子供たちは涙を流すより他に何も出来ぬとも判る。『北斗の拳』とはそうした世界の物語なのだ。
 もう一つは以後ケンシロウとともに旅するリンがそんな子供たちを代表する存在であることだ。これが単なる復讐譚であれば、ケンシロウはリマの願いで大佐と戦わねばならず、最後乱入するのもリマでなければならない。こうしたお話は少年漫画に多く、大概の作者はそのようなお話を作る。リマがケンシロウに願い、リンは精々ケンシロウを促すという程度に留る。処が武論尊は巧い。リマを気絶させ、リンに語らせ、ケンシロウの意思で動くように仕向ける。
 此処でリマを語るリンはリマと同化している。曾てリンは眼前で親を殺され、また今リマも眼前で親を殺され、リンは声を失い、リマは錯乱した。物語上リンはリマを介して過酷な体験を反復したことになる。だからリンが自らリマに己を投影することで二人は同化、リンは己とリマの二例で以て示された"ありふれた孤児"を代表する存在になった。故にケンシロウはリマではなくリンの独白に拠ってGOLANを潰さんと決意し、最後リマではなくリンが乱入した。リマとリン、名の音が似ていることも、あるいはそれを暗示していたかもしれない。
 だからケンシロウは幾らリンの為に危機に陥ろうと、迷惑を被ろうと、リンを疎ましく思わない。リンはリンという単体の少女ではなく、数多の孤児の表象だから、リンの行為はリン独りのことではないのだ。よってケンシロウは「後悔する/はずはない」。リンの涙は全ての孤児の涙だから。

もう一人のケンシロウ

 第二の対象は大佐である。たった六週しか登場しないボスキャラで、シンの如く後々振返られることもない大佐だが、實はありうべきケンシロウのもう一つの可能性を示した重要な存在である。
 大佐ははじめ謎の人物としてケンシロウの背後を取って登場し、大佐も最強を謳う南斗無音拳を使い、ケンシロウを容易く傷つけ、闇に融けてケンシロウを襲うている。これは大佐がケンシロウと同じ暗殺者であること、大佐がケンシロウに殆ど等しい能力を備えていること、大佐が出来ることはケンシロウも、ケンシロウが出来ることは大佐も出来ることを表している。故にこの時大佐はシンより強く見えてしもうた*1。その大佐にケンシロウは「なぜGOD/LANDなどという/狂気の野望を/抱いた?」と何故か問うた。ジードにもスペードにもシンにも訊ねなんだこと故、意味深長である。
 大佐答えて曰く、戦前は高潔で清廉な軍人で、GOD LAND建設は私慾でも野望でもなく善意であった。ケンシロウはそれを「狂気」というが、何故それが間違いであるか根拠を示さない。空極流舞の後、やっと「子供たちの涙」を理由に否定するが、それでも大佐の「GOD LAND建設」は拳王様が仰有る「野望」、シャチが云う「野望」に近く、全篇通じてケンシロウはそれを全否定し得なかった。
 その辺りにケンシロウの危うさがある。ケンシロウも或いは同じ野望を抱いたやも…という危惧を抱く。大佐の「狂気」はケンシロウの善意のすぐ隣にあると云えよう。
 更に勝敗が決した後、大佐は闇に怯えながら「な…なぜだ/なぜ/き…きさま/ほどの力が/あったら/なんでも可能/お…おれが/めざした/GOD LANDの/建設で/さえも…/そ…それを/こんなことに/後悔せんのか…」とケンシロウに問うた。大佐は明らかにケンシロウの思想に接近を図っている。誘惑と云うていい。この時「今度は きさまが/暗闇に おびえる/番だ!!」とケンシロウに目を封じられ、先に瞑目していたケンシロウと相子になっていることも暗示的である。ケンシロウは或いはこの時点でまだ大佐を「悪」とは断じきれずにいたかも知れない。「子供たちの涙」で結論を保留したままだった。
 故に最後の頁が意味を持つ。「ごめんなさい/ごめんなさい」と泣きながら謝るリンを見て、ケンシロウは優しく微笑み抱寄せて曰く「後悔する/はずはない……」。まるで大佐の誘惑に魅力を感じながらも、やっと留って己に言聞かせているようではないか。美人秘書の誘惑を「僕には妻子があるから」と拒んだ部長のようである。帰路、美人秘書の誘惑を惜しいと思いながらも、定期入れの家族写真を見て「これでいいんだ」と言聞かせているように読めてしまう。
 先にケンシロウは「子供たちの涙」を理由に大佐を否定した。然しGOLANの思想そのものを否定出来てはいない。「子供たちの涙」さえ回避出来れば認めてもよいわけだ。大佐は最後、乱入したリンに槍を投げてケンシロウに見限られたが、ケンシロウは同じようなことを目指して最後の最後まで「必要とあらば女子供でも…」と強固な思想を示したラオウ様を否定し得ず、最期はラオウ様御帰天を以て和解出来ている。大佐にも充分和解の餘地はあったわけだ。リンが乱入せねば、大佐は説得次第でケンシロウをGOLANの首領に迎え、GOD LANDを建設出来たやも知れぬ。その意味で大佐はケンシロウのもう一つの可能性を示していた。

再登場が大事

 然しこの篇のリンを見ると、少なくとも『北斗の拳』では初登場より再登場の仕方こそが大事なのだなぁ、と思う。再登場で勝手に行動しケンシロウを危機に陥れたリンは、以後同じことを繰返すようになる。初登場より再登場の仕方で役割が固定するらしい。

aside

*1
 勿論シンの方が強くあって欲しい。つけ爪つけた無音拳の大佐が六聖拳の孤鷲拳伝承者より強いなんて、とても認められぬ。大関は小結より強く、横綱は大関より強くあって欲しいと願う。

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