三十一篇全比較 26.女神の涙篇 197-199話(全03話)

 今回は短い。僅か三話だ。一度は分割しないで「修羅の国決着篇」の冒頭扱いでもいいかと思うたが、どうにもしっくりしないので、僅か三話ながら一篇とした。

 然し本篇は感動的な話ながら短い故か描写が不確かで筋を追い憎い。先づ泰聖殿には「ケンシロウに/伝えられるべき/秘拳があるという」。「だがその拳を/封じられた場所は/ヒョウしか知ら/されていない…」(JC:22:178)のだそうだ。ならどうしてシャチはヒョウを置いて泰聖殿に向ったのだろうか。
 シャチは「あんたたちは/待っていてくれ/今すぐ助けを/よこす!!」(JC:22:174)と宣うたが、泰聖殿は廃墟で、人など居なかった。そのことはヒョウも初めから知っていただろう。羅将であるヒョウが知らぬわけはない。故にシャチは先に「助け」を呼んでから泰聖殿に向うたと考えられる。事実シャチはヒョウの許に「助け」を四人ばかり寄越したようだ。黒夜叉と語ろうヒョウの後に敵とは思えぬ男たちが確かに描かれている(JC:23:087)。"羅刹"として修羅を殺し回るシャチに同心した仲間であろうか。それは兎も角、この連中にヒョウを連れてこさせるつもりだったであろうことは判る。
 だが、それでは、ヒョウを伴わず先に泰聖殿に着いたシャチは、泰聖殿で何をして待つつもりだったのだろう。「拳を/封じられた場所は/ヒョウにしか知ら/されていない」のなら、ヒョウが居ないことにはどうにもならないではないか。

 だが、よくよく読んでみると、必ずしもシャチが先に泰聖殿に向うことはなかったが、先に向うたこと自体にはシャチなりの考えがあり、意味があったことが判る。
 レイアは泰聖殿のことを知らなかったようだが、流石に北斗琉拳を学んだだけあって、シャチは以前より泰聖殿を知っていたようだ。泰聖殿に着いた時に初めて来たとは思えぬ口振りで「ここが北斗宗家の/泰聖殿!!」と云うている(JC:22:177)。ジュウケイに連れられて来たことがあったのだろう。だから泰聖殿が今は廃墟であることも知っていたに違いない。
 其処にカイオウが待っていた。作中には描かれなかったが、シャチが泰聖殿に向うているようだと報告があって、先回りしたのだろう。シャチがヒョウに「助け」を寄越している間にカイオウが先に着いたのだ。シャチにしてもまさかカイオウが来ているとは思わないまでも、敵がいる可能性は考えていたようで、泰聖殿の門前で警戒はしていた(JC:22:178)。羅聖殿を出てから暫くカイオウの部下が差し向けた兵を殺しながら負傷したヒョウを伴うてノロノロ歩き、その後別れてヒョウに「助け」を寄越す手配を済ませ、それから泰聖殿に向うたのだから、その間に敵がこちらの動向を察し泰聖殿で待伏せているくらいのことは当然考えていただろうから、これは当然の心得だ。ましてやシャチは修羅を闇討ちする"羅刹"だったのだ。考えないわけがない。
 ということは、シャチがヒョウより先に泰聖殿に向うたのは、露払いの為ではなかったか、と思う。カイゼルを殺し、ハンが斃され、ヒョウが敵でなくなった今、最早シャチが怖れねばならない修羅はカイオウしかいない。勿論シャチがゼブラより強く、ヌメリが修羅ではないと假定せねばならぬが、それでもシャチが大概の修羅より強いことは確かで、待伏せていた敵がカイオウでさえなければおめおめと負けはしない。だからケンシロウもヒョウも黒夜叉もシャチを止めず、着いていこうとするレイアを宥めもしなかった。相手がカイオウでさえなければ、レイアを守りながらでも充分戦えると信じていたのだ。
 ケンシロウがシャチに着いていかなかったのは、ヒョウと黒夜叉が怪我人であった為だろう。またケンシロウが先に行かなかったのは、ケンシロウが修羅の国の地理に疎い為だ。あの場で自由に動けて修羅の国の地理に詳しい者はシャチしかおらず、シャチなら充分露払いの役に立つから、シャチは先に泰聖殿に向うたのである。ただ、待っていた敵がカイオウであったことが、シャチの……、否、レイアの不運であった。

続き

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  • 序:シャチ通用せず
  • 破:レイア逃げろ
  • 急:シャチ奮戦
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  • 起:カイオウがリンに自殺を奨める→シャチのみ泰聖殿へ→カイオウ憤怒
  • 承:シャチ受難→女人像発見→カイオウ拒絶
  • 転:あつくて死ぬぜ→女人像の落涙と微笑→シャチ再起
  • 結:確かに破孔を突いたはず→カイオウ辛勝→シャチ辞世

 本篇は「ユリア争奪篇」にてケンシロウが無想転生を披露してラオウ様を圧倒する件、血塗れのフドウがラオウ様の恐怖心を呼び起し後退させる件と意味を同じうするのではないか、と思う。「死に/絶えたはずの/シャチが!!」レイアの為に立上がり(JC:23:025)、破孔を突かれてもカイオウの首を締め続けるシャチ(JC:23:035)は、ラオウ様の剛拳で「肉体は/二度砕けて/いるはず!!」なのに死なぬ処かトキの動き、レイの拳を写して見せたケンシロウ(JC:14:168)、肉体は既に死にながら子供たちの為に歩を進めるフドウ(JC:15:084)の姿と重なる。また"対ラオウ様に於ける無想転生"と"対カイオウに於ける秘拳"で対比も出来る。そして次篇で秘拳が大して役に立たなかったことも、練気闘座での決戦で無想転生が殆ど役に立っていなかった*1ことと符合する。

aside

*1
 ラオウ様も無想転生を纏うた為、全ての奥義が相殺されて無となり、最後は赤子の闘いになった。究極奥義が決め手にならないという辺り、『北斗の拳』は独特である。

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